はじめに
前回の記事では、犬と楽しく暮らす未来を思い描いて迎えたのに、想定外の、犬との暮らしを継続するのに悩むいくつかの事例を上げました。
でも、せっかく迎えた大切な命です。
手放すことなく、そしてもう一度、信頼、愛情を取り戻し、人にも犬にも幸せな関係を再構築する方法をあ伝えします。
自分が求めていた外見とは変わった時
子犬の時は、そのかわいさに惹かれて、そしてペットショップの店員さんの「この子は大きくなりませんよ」という言葉に後押しされて迎えたのに、成長した後に、「思っていたのと違う」「普通に大きくなっているじゃないか」とショックを受ける人もいるかもしれません。
確かに、見た目だけが「とにかくかわいい」のは、一目ぼれした子犬の時がピークかもしれません。
でも、犬の魅力は、年月を重ねてからじわじわと深まるものです。
犬は飼い主との関係が深まるほどに、申し訳ないほどに自分の存在を肯定して無償の愛を届けてくれます。
人といる時は「嬉しい」「楽しい」「どうしたら笑ってくれるかな」「喜んでくれるかな」といつもこちらに向けてアンテナを張り巡らせています。
愛を与えれば与えるほど、その何十倍にもして返そうとする――その姿は、外見の「かわいい」よりもずっと愛おしく尊いものです。
犬の「外見」ではなく「心」を愛おしいと思えた時、その大きさも、ちょっと不格好な容姿も、全てが「この子のものだ」とかけがえのない愛おしさに変わっているはずです。

散歩の必要性
前回、犬の犬種によって、犬自身が満足する散歩時間も違うというお話をしました。
これは、猫との大きな違いで、犬を飼う人の覚悟が試される部分です。
猫は飼い主に、安全な整った環境、自分の日常のペースに合った(人と距離を置きたい子も甘えん坊もいます)安定した穏やかな愛情、見守りの目をくれることを求めています。
犬は、夏でも冬でも365日散歩が必要になります。その前提を理解して迎えてあげると、お互い幸せな関係が続きます。
そして体が大きい犬種ほど、運動量が必要となります。そのような犬は、朝夕それぞれ1時間ほどの散歩が推奨されています。
自分の生活パターンを考えた時、その時間を自分が確保できるのか、考えてから迎える事も大切です。
また、犬は自分自身からも常に人に愛情を与えるのと同時に、自分にも愛情、声掛けの返答がないと、人の心の機微など、常にしているため、猫的な距離の保ち方より、声掛け、スキンシップを常に求めます。
散歩がネック、という人は、散歩を犬のための散歩と思わず、自分の健康維持と気持ちを切り替え「今日も行ってあげなきゃ」という義務感から、「1万歩歩こう」という自分のモチベーションにすると、毎日のルーティーンも楽しくなります。散歩を毎日の日課としている人は、健康寿命も長くなります。その散歩を彩るパートナーを迎えるような気持ちで、犬を迎えてくれれば、と感じています。

散歩の時は、ただ前を歩かせ、引っ張られるのではなく、人の横につき、同じ速さで歩く事。何かに反応して急に走り出しそうになった時も、リードを引っ張ると「あ、だめなんだ」と合図を受け取れるしつけを、子犬時代からする必要があります。
散歩時に飼い主の言う言葉で本能の衝動を抑える――ダメな事を𠮟るしつけではなく、出来た事を褒めるしつけで、歩く早さも人間側が、こちんとリードや言葉で調整できるハンドラ―となる事は、犬と人、お互いの幸せな未来のためには欠かすことが出来ない関係作りです。
自分に懐かない時
犬との楽しい生活を思い描いて迎えたのに、犬が自分に懐かない
確かにそれは、犬との生活を楽しめない要素となると思います。
懐かない理由は大きくわけて三つあると思います。
一つ目は、過去につらい体験をして、心を閉ざしている場合。
二つ目は、あなたがその犬が何らかの信頼を築こうと出していたサインを繰り返し無視してしまい、犬があなたと信頼関係を築くのを諦めた場合。
三つめは、「ご飯」「散歩」「遊び」を家族の中で一人だけが」担当していて、犬が主人をその人1人と心で決めてしまい、他の家族の存在を無視するようになってしまう場合です。
恐怖心で懐かない場合
保護犬で、劣悪な環境や、繁殖犬としての酷使、虐待など、辛い背景を持って譲渡される子もいます。ペットショップで長い間売れ残っていた子も、愛着形成が不完全なまま母犬と話され、孤独なケージで長い時間を過ごし、心を閉ざしてしまっている子もいます。
そういう子に必要なのは「時間」と「愛情」です。
そういう子なんだな、と理解して無理に急いで距離を詰めない。はじめはケージで安全基地を作ってあげて、扉はいつでも出れる状態にして、必要以上に干渉しない時間が必要です。ご飯の時に優しい声掛けだけを行う、なるべく静かで穏やかな住環境を整えることで、「ここは安全だ」「この人は怖くない」と少しずつケージから出てこれるようになったら、これもあせらずゆっくりと、心を開く日を待ってあげてください。
本来、人を信頼する事が出来なかった子は、あなたに心を開いた日には、その情の深さも普通に育った子以上に深いものです。
「命の恩人」くらいに深い愛情をあなたに返してくれるはずです。

日頃の信頼関係不足で懐かない場合
あなた自身が信頼関係構築を遮断していた時は、これもあなたが変われば犬も変わります。
犬は本来、愛情深い生き物。あなたに懐かないと決めたのは、自分の心が壊れるのを防御するためであった部分も大きいです。
自分の行動で変えられるなら、しばらく無視されるのは覚悟のうえで、あなたとの思い出を、ポジティブな行動で上書きしていくのが改善の道です。
犬と向き合おうとした数日だけ丁寧にコミュニケーションを取って、関係が改善したからと言って、もとの無視に近い生活に戻るのはやめましょう。
犬は、自分の機嫌のいい時に構って、気が向かない時は目も合わせないような、波のある愛情に強い不安を感じます。

常に犬と向き合い、全力で遊ぶことは出来なくても、犬が顔を上げて、こちらの様子を伺っている時など、犬が安心できる優しい声掛け、優しい視線を返すだけで、愛情を受け取ってくれ、あなたが視界に入るだけで安心して過ごされ、穏やかな子へと変わっていきます。
家族の一人にしか懐かない時
犬は、心の中で自然と序列を作ると言われています。
序列とは信頼関係。日頃のお世話をしてくれる人、日頃から自分の事を気にかけ、愛情を注いでくれる人――そういう人を信頼し、自分の「主人」」であると認識するのです。
犬には、「散歩」「ご飯」「トイレそうじ」など、必要なお世話は日常の中でいろいろあり、そのお世話は必然的に、家に一番長くいる「お母さん」の役割になりがちです。
犬はその「お母さん」に一番信頼を寄せますが、それ以外の家族も本来であれば、「主人」「友達」「守るべきもの」と、関係性は違えど、全員を「大切な家族」として認識し、帰ってくれば喜び、遊んでほしくてちょっかいを出してくるものです。
ただ、家族全員の犬への愛情に温度差がある時があります。「自分が世話をするから」と説得して迎えた子ども自身が、大人になったら全く世話をしなくなって声も書けなくなったり、お父さんが帰ってきても、犬から向けられる視線に応えずに、テレビを見たり、犬からしたら、まるで自分がいないように扱われてしまう。
こうなると、犬は、玄関から帰ってくる人もお母さん以外には無反応になり、お母さん以外が散歩に行こうとしても拒否したり、と意志を持って拒絶してくることがあります。
犬は、お母さんか自分を守ってくれる人はいないと依存する
他の家族は「かわいくない」と更に声掛けやお世話をしなくなる
そういう悪循環が生まれます。

その関係を改善するには、身の回りのお世話を、出来る時間に何かする、犬に、生活を支える大切な存在と認識してもらう、がまず一歩になるんでは?と思います。
そして「好かれよう」とグイグイ距離を詰めていくのではなく、犬の目線に視線を返す。
日常に
「○○、行ってくるね」「○○、ただいま」「○○、今日何してたの?」と、優しい継続した声掛けを続ける事。
そして、犬があなたに心を開いたアクションをした時は、その時忙しいから、気が乗らないから、ではなく、ちゃんと受け止め、あなたの愛情を返す事。
一番手はお母さんのままは変わらなくても、他の家族も犬にとって、大切な存在として変わっていくでしょう。
しつけができない、攻撃性が強い時
飼い続けたい気持ちはあっても、しつけを全く出来ない、吠え癖、訪問者への威嚇がやめれない――これは深刻な悩みでしょう。
これは二つの原因があります。
一つ目は、迎える前のトラウマが強く、人が差し出した手に恐怖からの防衛反応で噛みついてしまう時。
もう一つは、もとの犬種のデメリットが強く出てしまい、家というなわばりに入ってきた人を追い出そうとする時。飼い主にも攻撃や威嚇をしてもいいんだと認識したまま成長してしまった時です。

恐怖からの防衛本能の時は、しばらくは無理に触ろうとせず、声掛け、エサやりの行動に接触を留め、優しい声掛けを継続する。人の手を怖がる子には頭の上から手を近づけず、下から、一度匂いを嗅ぐ時間を与えてから犬が舐める、を受け入れる程度のスキンシップから始めていきます。
この人は怖くない、と学習したら、本来の気性の荒さからくる行動ではないので時間が解決してくれます。
もう一つの方の行動習性が難しいです。
まずは、訪問者への威嚇に対して。
現在は室内飼いが一般的になり、家に近づく人は自分のテリトリーを犯す人だと攻撃します。小型犬に、特にこの傾向が表れやすいようです。
この行動に関しては、威嚇の行動が出る前に飼い主がコントロールする事が出来るようにする事で改善する事が出来ます。
訪問者と接触させないようにケージに入れる。その時に吠え続けても反応しない。静かに待てたらおやつや褒める、で「静かに対応すれば良いことがある」と学習させます。
問題行動には叱りたくなりますが、問題行動には叱る、も犬には構ってもらえる、と受け取る子もいます。
「叱るではなく反応しない」
問題行動を放置するのではなく、別の代替えの行動を促し、そちらを選んだら褒める。を繰り返して学習させます。
本来は繊細で臆病だからこそ見えている反応。それを我慢してやり過ごすことが出来たら、出来た事をたくさん褒める。飼い主も一貫した関わりを続けることで、犬も混乱せずに、吠えたいけどぬいぐるみを噛んで我慢する、のような問題とならない行動に移行するトレーニングが出来ます。
飼い主に対して噛みつく、威嚇する、に対して、
犬は関係性に序列を作る習性がありますが、犬より飼い主の方が上であると関係性を認識させる方が、犬と共存していく中で長期的にしつけもしやすく、良い関係性を維持していける事に大切な要素です。
問題行動が出てから民間のしつけ教室に預け、再教育をすることもありますが、そのようなところでは服従型指導を取り入れていることも多く、その訓練士のもとでは問題行動が改善されても、家庭に戻ったら飼い主に対しての関係性は変わらないまま、という事もあります。
犬が飼い主をリーダーと感じていないことに、飼い主側に原因があることがあります。
・問題行動に面白がったり、叱られたと感じない反応をした
・1日中声もかけない日もあれば、寝ている時に抱っこしたり、気分次第で距離を詰められる
・叱る場面に一貫性が無い
・散歩、ご飯、トイレの掃除など、犬の生活を支える「世話」の部分に関わっていない
等。
このような行動が繰り返されると、問題行動を注意しても逆に威嚇などの行動で返したり、あなたを自分の生活の安心圏外の存在として認識し、いわゆる「舐めた」態度をとることもあります。
そのような時に「叱って従わせる」は逆効果です。
信頼していない人の「上からくるしつけ」は、犬は反発します。
関係性をスモールステップで改善していき、その後に小さな服従訓練から、大きな問題行動の改善に進めていきます。
スモールステップの一歩目として、
・ごはんを出す、ペットシートを変える、等の日常の関わりを出来るところからする。フードの皿に触ると威嚇する子も、フードを出す時は威嚇しないので、まずはフードを出すところから
・散歩では、リードをコントロールして、横を歩かせるようにする。犬に引っ張られるではなく、主導権を人とすることを伝える
・忙しい日常の中でも、なるべく優しい声掛けなどを出来る限りしていき、毎日心の交流のある状態を保つ。日頃から気持ちや愛情をかけていれば、多くかまう日も「気まぐれ」ではなく「今日はたくさん遊べる楽しい日」となる
・噛む、威嚇には、すぐに触らず、頭より下から手を近づけ、噛みそうな日には大きなリアクションはせずに諦め、犬の方から匂いを嗅いで手を舐めるなどしてきた時にゆっくりとした動きで触れる、撫でるコミュニにケーションから始める。
・問題行動は反応しない、大きな声で怒るように叱らない。飼い主側のコミュニケーションの改善から行い、信頼される、リーダーと感じてもらえるようになってから、信頼を壊さないよう「褒めて改善する」しつけを取り入れる
が良いでしょう。
犬はとても賢いです。適切なコミュニケーションの中で新しいルールを学ぶこと、習慣を改善する事は犬が成犬になった後でも可能です。
犬も、飼い主に褒めてもらえるのなら、新しいコマンド(指示)を覚える事も逆に喜びになります。
まとめ
「あれ?困ったな」という問題は、見過ごさず、早期にしつけとして行動を矯正していくと、成長した後に「手が付けられない」問題行動となる芽を摘むことが出来ます。
犬は、言ってみれば「恋人」のよう。常に、あなたからのの愛情と関心を求めます。
しかし、その愛が確かなものだと確信した後は、その何十倍もの愛をあなたに帰そう、あなたに尽くそうとしてくれます。

あなたとあなたのもとの犬との関係が、良いものとなりますように。

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