回覧板

ショートショート

引っ越しを終えた私たち夫婦は、町内会長に挨拶に行った。
町内会長さんは、朗らかな雰囲気で、
「今はもう町内会行事もやらなくてね。若い人はそういうの面倒くさいでしょ?回覧板だけ回してもらえばいいから」
と話された。
町内会行事は気が重いと思っていたので、正直ほっとした。

次の日、玄関の前に回覧板が置かれていた。

開けてみると
「新しく、2丁目にTさんという夫婦が加わりました。28歳と25歳のご夫婦で、まだお子さんはいないようです」
(…なんで私たちのこと…?)

翌日も、その翌日も、回覧板は玄関に置かれていた。
「2丁目のHさんのご主人がお仕事を辞めたそうです。職探しの間、奥さんがパートで家計を支えるようです」
「3丁目のKさんの娘さんが、大学受験をしたいと、塾に通い始めたようです」
「1丁目のSさんが離婚し、奥さんが家を出ていきました」

「何、これ…」

私たち夫婦は、回覧板を回すのをやめた。

次の日から、挨拶しても目を逸らされるようになった。
ヒソヒソとこちらを見ながら噂話をしている。
どうやら回覧板には、我が家のことが毎日書かれているらしい。
「夕飯に何を食べたか」
「夫の年収」
「食卓での会話」
「夜の営みの事情」

私たち夫婦は、2か月後には引っ越しをすることにした。

でもいまだに、回覧板を見ると胸がざわつく。

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