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魔女の言い分(ヘンゼルとグレーテル)

私はパティシエだった。魔女なんかではない。顔が鷲鼻で、ちょっと人相が悪かっただけだ。職人の世界では、強面の人は珍しくない。ある日、お菓子の家を作ってほしいという注文が入った。家サイズのお菓子なんて、前代未聞の無茶な注文である。でも私は、腕の...
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境界線

文章にはスプーン一杯分くらい、書き手の人間性が投影されると感じる。私と彼女は、まだまだ無名のしがない物書きであった。私も彼女も、0から1を生み出すのは苦手だけど、今あるものを自分の感性でアレンジするのが得意であった。私には、人のことを懐疑的...
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明日

私は、未来から来た科学者だ。タイムマシンを使って、人類滅亡の日の前日にやってきた。私はその日、たまたまタイムトラベル中だったので、偶然生き残ることができた。明日起きる事は隕石の衝突なので、滅亡を止めることは出来ない。私に出来ることは、一人で...
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日本語講座上級者コース

丁寧語、尊敬語、謙譲語をマスターした上級者にだけ受講できる講座があった。1日目は、「省略語」。「あーっす。これは何と言っているでしょう?」「明日?」「違います。ありがとうございます、です」生徒はどよめく。「っす。これは?」「?」「おはようご...
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鶴の恩返し

「私が機を織っている時は、決して戸を開けないでください」女はそういって、機織りの部屋に入っていった。男は、女が鶴であることに、とうに気づいていた。鶴の所作が、食事の仕方や生活のいたるところに現れていたからだ。そして、機織りの部屋に入ると、機...
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金太郎の後悔

金太郎は悔やんでいた。昨今、熊が人里に降りてきて、人間の生活を脅かしている。金太郎のもとには、「どうやったら熊に勝てるか教えてほしい」という相談が止まらない。金太郎は、そのたびに言う。「話を盛ってしまい、申し訳ありませんでした。熊と相撲なん...
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織姫と彦星

七夕の一夜しか会えない織姫と彦星は、会えない時間の分、強い恋心でつながっていた。でも、それは二十代の頃の話である。三十代になると、「あれ?」と思うことが増えてきた。(白髪が出てきたな)(息、臭くなってきたな)一年ごとに、幻滅する部分が増えて...
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理想の彼女

彼女は、僕の理想にぴったりだ。当然のことだ。私が自分の理想に合わせて作り上げた、AI人間だからだ。顔は本当にかわいいから、ずっと見惚れていた。でも、美人は三日で飽きるとは本当で、数日見ているうちに美しさには興味がなくなった。それでも、性格も...
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優しいおじさん

おじさんは、子どもの頃から私の事をそばでみていて、ずっと支えてくれている。私は生まれつき目が見えず、母がそんな私を女手一つで育ててくれた。母の死の直後に、角膜移植手術のチャンスが訪れ、初めて見たのがそのおじさんだった。おじさんは、身寄りのな...
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鳴かぬなら

「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス と言ったのが織田信長、鳴かぬなら 鳴かせてみよう ホトトギス と言ったのが豊臣秀吉、鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス と言ったのが徳永家康、という逸話が残っています。私は家康型です。従業員の皆さ...