ショートショート

ある秋の夕刻。母と子どもは、家までの道を歩いていた。背後には大きな影が伸びている。しかし、影は一つ。子どもの影だけだった。「どうしてママの影はないの?」「それはね…」「大人になると影は無くなるんだよ」「へぇ、そうなんだぁ」子どもはそう返答し...
ショートショート

18禁

その映画は「18禁」と書かれていた。少年は、18歳になった日の夜に、ついにその映画を観ることができた。ワクワクしながら見ていたが、映画の終わりまで、全くそういう映像が出てこなかった。(どこが18禁なんだよ)と投げ捨てようとした時、裏に書いて...
小説

違和感

(何かがおかしい)家に帰ってきたのだが、何かが少し違う気がする。同じ家具、同じ配置、テーブルの上にはお気に入りのマグカップがある。でも何かが違う気がする。そんな時、玄関から人が入ってきた。私が恐怖で硬直していると、そこに立っていたのは階下の...
ショートショート

離婚式

ある日、ポストに招待状が届いていた。友人Y子夫妻からだ。「離婚式?」はじめて聞く名前に興味が湧いて、私は「参加」に〇をつけた。20年前に感動的な挙式を上げていた二人は、今日もまた、同じドレスを着て教会にいた。神父は「永遠の別れを誓いますか?...
ショートショート

出生

俺には父親がいない。俺が生まれてすぐに、何の前触れもなく蒸発してしまったというのだ。母はそんな状況でも、俺を女手一つで育ててくれた。母は、「こう見えても、若い頃は美人だったのよ」と話す。生活の苦労のストレスで20㎏以上太ってしまったらしい。...
ショートショート

ネッシー

ネッシーの写真をとったマーマデューク・ウェザレルは「あの写真はイカサマだった」と言葉を遺して亡くなった。これによって、世の中から一つの伝説が消えた。死の間際、彼はネス湖を訪れていた。ネッシーは、彼の前に静かにあらわれた。「私の1枚の写真のせ...
ショートショート

井戸

我が家の裏には井戸がある。昔ながらの、つるべ落としのある井戸だ。水道で賄えてる今、井戸は埋めていいのではと祖母に言ったことがあるが、「何かあった時のために残しておきたいんだ」と頑なに譲らない。私の両親は、あまり仲が良くなかった。母が泣いてい...
ショートショート

口裂け女

「私、きれい?」「もちろん、おきれいですよ」女はマスクを外し、口を見せる。「私、きれい?」「だから、きれいって言っているじゃないですか。しつこいなぁ」私は、美容外科医だ。毎日、コンプレックスを抱えた女性がたくさん診察に訪れる。大体は、「おき...
ショートショート

サイトウ

私の苗字は「サイトウ」だ。ありふれた名前の様だが、これほど悩ましい苗字はない。「サイトウ」の字は、85種類もあるという。「漢字ではどう書きますか?」と聞かれるたびに、説明に苦戦する人生を送っている。今日は免許の更新に来ている。窓口で「ワタナ...
ショートショート

桃を拾ったおばあさん

おじいさんは山へしばかりに。おばあさんは川に洗濯に。山も川も歩いて半日ほどかかり、家に帰ったころにはお腹がペコペコだった。ある日、おばあさんが、川で拾ったという大きな桃を持ち帰ってきた。なんと大きな桃だろう。今晩は久しぶりにお腹いっぱい食べ...