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出生

俺には父親がいない。俺が生まれてすぐに、何の前触れもなく蒸発してしまったというのだ。母はそんな状況でも、俺を女手一つで育ててくれた。母は、「こう見えても、若い頃は美人だったのよ」と話す。生活の苦労のストレスで20㎏以上太ってしまったらしい。...
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ネッシー

ネッシーの写真をとったマーマデューク・ウェザレルは「あの写真はイカサマだった」と言葉を遺して亡くなった。これによって、世の中から一つの伝説が消えた。死の間際、彼はネス湖を訪れていた。ネッシーは、彼の前に静かにあらわれた。「私の1枚の写真のせ...
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井戸

我が家の裏には井戸がある。昔ながらの、つるべ落としのある井戸だ。水道で賄えてる今、井戸は埋めていいのではと祖母に言ったことがあるが、「何かあった時のために残しておきたいんだ」と頑なに譲らない。私の両親は、あまり仲が良くなかった。母が泣いてい...
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口裂け女

「私、きれい?」「もちろん、おきれいですよ」女はマスクを外し、口を見せる。「私、きれい?」「だから、きれいって言っているじゃないですか。しつこいなぁ」私は、美容外科医だ。毎日、コンプレックスを抱えた女性がたくさん診察に訪れる。大体は、「おき...
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サイトウ

私の苗字は「サイトウ」だ。ありふれた名前の様だが、これほど悩ましい苗字はない。「サイトウ」の字は、85種類もあるという。「漢字ではどう書きますか?」と聞かれるたびに、説明に苦戦する人生を送っている。今日は免許の更新に来ている。窓口で「ワタナ...
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桃を拾ったおばあさん

おじいさんは山へしばかりに。おばあさんは川に洗濯に。山も川も歩いて半日ほどかかり、家に帰ったころにはお腹がペコペコだった。ある日、おばあさんが、川で拾ったという大きな桃を持ち帰ってきた。なんと大きな桃だろう。今晩は久しぶりにお腹いっぱい食べ...
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狭き門

「あなたは一度、困っている人に手を貸しませんでしたね」そう言われ、俺は左の門に案内された。左の門は長蛇の列ができ、右の門は、まだ一人も通過していない。経費削減のため、天国の門の審査はかなり厳しくなったようだった。そんな中、「おめでとうござい...
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双子

私と妹は一卵性双生児で、本当に見分けがつかなかった。そして私たち双子は、外見に恵まれていた。美貌と瓜二つな外見で、私たちは幼少期からずっと人目を引き、告白される人生だった。私は、多くの言い寄ってきた男性の中から、最も容姿が良く、賢く、経済的...
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雲の上

僕がパイロットになったのには訳がある。幼いころ、母が亡くなる時、「悲しがらないで。これからはあなたのことを雲の上から見ているからね」と言う言葉を遺していったからだ。それ以来、僕は空を見上げることが多くなり、やがて空を旅する仕事をしよう、とパ...
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地獄

男は、多くの悪事を働き、地獄へ墜ちてしまった。血の池があり、針の山があり、阿鼻叫喚が響き渡る。そこには鬼が、恐ろしい顔で地獄の者たちをしばいている。その時、どこからか「蛍の光」が聞こえてくる。「もうすぐ閉館になります。また明日のご来場をお待...