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あの日のお兄さん

暗くなる公園で、僕と弟は帰るのを躊躇っていた。(今日もお母さん、酔っぱらってるかな?今晩も殴られるんだろうな)「お兄ちゃん、帰ろう」「… うん、そうだね、帰ろうか」家路に向かおうとした時、一人のお兄さんが声をかけてきた。「やすくん、こんばん...
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背比べ

小学六年で母の背丈を追い越し、母の白髪に気づいた。中学3年で父の背丈を追い越し、父の後頭部の退行を日々観察している。高校2年で兄の背丈を追い越し、自分だけが届くと思って隠していた本を見つけてしまった。今、家族で一番、僕が皆の秘密を知っている...
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ぴーちゃん

結婚して子供も授かる気配がなかった夫婦は、インコを飼い始めた。「おはよう」「ぴーちゃん」我が家のインコはよくしゃべる。「ぴーちゃん、かわいい」「しねばいいのに」「えっ?ぴーちゃん、今、何て?」その日の夜、妻はそっと家を出た。
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のろまなカメ

「ウサギは、昼寝をしているうちに、カメがゴールに着いてしまいました。さぁ、皆さんのお手本にするのはどちらですか?」「カメでーす」子供たちが一斉に答える。「……いいですか。遅くて、休憩もしないでやっと勝てるカメをお手本にするなんて、将来は社畜...
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ある老婆と息子

踏み込んだアパートには、死後数か月経過した、二つの死体があった。「母親が亡くなって、その後息子が餓死したみたいですね」「息子はおむつが当ててあった。介護が必要だったんだろうな、かわいそうに」二人の刑事は状況を判断し、手を合わせた。僕は戸惑っ...
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十六夜

1人の彫刻家がいた。天賦の才に加え、寝食を削るほどの努力家であった彫刻家は、他の追随を許さないほどの存在となり、芸術家としての黄金期を迎えていた。彫刻家が、自分でも見惚れるほどの「聖母マリア像」が完成したその夜、彼は頭を殴られたような激しい...
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未来の色

私の持っているロボットは、未来が予見できる。しかし、教えてくれるのは、未来の持つ「色」だけである。「明日の天気は?」「灰色」翌日は曇りだった。私はロボットに、恋愛の未来を見てもらうことにした。「この人は、明日デートしたらどうなる?」「ピンク...
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暗闇の世界

「ここはどこ?」光はなく、常にザザーという静かな音だけが聞こえる。「トクン、トクン」という規則的な音が心地よい。時折、壁を通して優しい音楽が聞こえたり、こちらに話しかける声が聞こえる。でもその言葉の意味は、僕にはわからない。声は、男の人と女...
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きびだんご

桃太郎は、おばあさんが作ってくれたきびだんごを腰につけて、鬼退治に出発した。「桃太郎さん、お腰につけたきびだんご、一つ私にくださいな」そう声をかけてきた犬、猿、雉に、「これから鬼を成敗に行く。家来としてついてくるなら後であげよう」と答えた。...
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ガラスの靴

ガラスの靴を落として城を去っていったシンデレラ。次の日からはまた、朝から家事に追われる生活に戻っていた。そんな中、王子が昨夜のガラスの靴を見せながら、「この靴にぴったりと合う人を探している」と町の女性を集めていた。女性たちは、我こそはとガラ...