今日は大学を卒業し、4月に就職してから初めての健康診断だ。
何かと不器用でドンくさい僕だ。その分、何事も真摯に一生懸命努力する習慣がある。
今日も、この日のために、数日前から夜更かしをやめ、飲み会も控えていた。
緊張はしているが、おかげで体調も良い気がする。
血圧、血液検査、心電図…。
なぜか看護師や検査技師が首をかしげる。
最後に通された問診の時、聴診器を胸に当てた医師もまた
「…えっ、なんで?」
と呟いている。
1か月後に検査の結果が届いた。
視力:右1.5 左1.5
聴覚:異常なし
血液検査:測定不能
心電図:反応なし
医師の所見:生体反応がないようです
「えっ?どういうこと?」
僕は動揺して、故郷の父に電話をした。
「おぉ、久しぶりじゃないか?ご飯はちゃんと食べてるか?会社には慣れたか?」
電話の向こうの父の声はいつもと変わらず優しく、鼻の奥がツーンとしてきた。
僕は、健康診断の結果の話をして
「何のことだか、意味がわからないんだ」
と伝えると、一気に涙が溢れてきた。
父は、僕の話を最後まで聞いた後、
「明日、話があるから家に来なさい」
と言われた。
父の声を聞くと不思議と安心した。
(さぁ、どうするかな?)
父である私は、息子からの電話を受けて考えていた。
私は、国家機密の重要な研究をしている科学者である。
息子として育てている青年は、人工AIで作られた人間第1号であった。
第1号だったこともあり、性能は決して高くなかった。
ただ、素直で努力できる性格だったので、私の叱咤激励や周囲のサポートで受験や就職試験などを乗り越えてきた。
毎年の健康診断で、同じような診断結果が届き、毎回取り乱した電話がくるが、私が息子の記憶を操作することで、次の日には忘れ、日常に戻っていた。
でも、22年のデータも取れたし、そろそろ研究を完了してもいい頃かもしれない。
(では、明日であいつともお別れだな)
ただ、1号は失敗だったな、と私は今日気付いた。
私はいつしか、科学者ではなく父親になってしまった。
別れがこんなに悲しいなら、軍事用には使えない。
今夜は涙が止まらない。

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