引き出し

ショートショート

家族で同じ棚を使用していた。

1段目は父の貴重品。
2段目は母の貴重品。
3段目は僕の貴重品。
4段目は弟の貴重品。
全ての引き出しに鍵がついていて、本人しか開けることが出来なかった。

僕の家族は仲が良く、大人になっても家族旅行をしていた。
今年も家族旅行が行われたが、その旅行の帰り道、家族の乗っていた車が事故を起こしてしまい、僕以外の家族は即死だった。
僕は大けがを負ったものの、奇跡的に一命を取り留めた。

長い治療とリハビリを経て、ようやく自宅に帰ってきた。
遺品として、家族それぞれの引き出しの鍵を手に入れた僕は、家族の引き出しを開ける事にした。
きっと、それぞれが大切に思っていた思い出が詰まっているのだろう。

まず、1段目の父の貴重品。
隠し撮りをされた写真の束が入っている。
母と、もう一人の男の人は誰だろう?
封筒には「探偵事務所」の名前がある。
浮気調査の結果?何のことだ?

動揺しながら、2段目の母の引き出しを開ける。
たくさんの手紙の束がある。
差出人は、聞いたことのない男の人の名前だ。
目を背けたくなるような、歯の浮くような愛の告白が続く。
そして、急にその文面は色合いが変わる。
「本当に俺の子か?もう堕ろせないのか?」
「俺にも家庭がある。お互い、遊びだったじゃないか?」
「もう連絡してこないでくれ」
これが最後の手紙となっていた。

嫌な予感がしてきた。
(僕は、父の子ではない?)

胸の鼓動を抑えながら、4段目の弟の引き出しを開ける。
そこには、検査結果が入っている。
「遺伝子検査の結果のお知らせ」
僕は息をのむ。
「Y(父)との親子関係について検査した結この果、生物学上親子関係は認められませんでした」
(弟の方だったのか…)
弟の引き出しには、それ以外にも
「心中 交通事故」
などのメモの走り書きに加え、引き出しの底からは
「遺書」
と書かれた紙が出てきた。
「俺は生まれて来てはいけなかったのではないか?この真実に気づいてから、仲が良かったと思っていた両親の瞳に、罪悪感や憎しみが宿っていることに気づいた。俺がこの家族を終わらせようと決めた。相変わらず兄貴だけが無邪気に家族の仲の良さを信じている。真実を知った今は、兄貴の能天気さが恨めしい」
と書いてあった。

最後に3段目の僕の引き出しを開ける。もうずっと開けてなくて、何を入れていたのかも覚えていなかった。
引き出しの中には、修学旅行の思い出や、子どもの頃に初めて買ってもらったゲーム機が入っていた。
全てが懐かしく、愛おしい宝物であった。
(確かに僕だけが、無邪気で能天気だったんだな)
僕は嗚咽した。

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