現代音楽家

ショートショート

私は、新進気鋭の現代音楽家だ。
不協和音の多用や変拍子など、独自の作品観が音楽批評家を始め、多くの人たちに評価されていた。

新曲の発表公演が近づいてきた。
しかし、最近、耳の聴こえがが悪い。
ベートーヴェンだって、その状態で作曲していたじゃないかと思われるかもしれないが、私は彼とは違って凡人である。
耳が聴こえないのに、作曲なんて出来るわけがない。

誰にも言えないまま公演当日を迎えた。
もう、耳は全く聴こえなくなっていた。
舞台に上がった私は、
「もうどうにでもなれ」
と滅茶苦茶にピアノの鍵盤を叩いた。

演奏後、しばらく静寂が続いた後、最も権威ある音楽批評家の拍手を皮切りに、会場は満場の拍手で包まれた。

後日、その著名批評家は、

「今世紀最大の新しいジャンルの傑作が誕生した」

と投稿し、その日の演奏は伝説となった。

私は、音楽批評家だ。
幾多の作品を聴いて書く私の音楽評論が音楽の本質をつかんでおり、この業界で、私の右に出るものはいなかった。
しかし、最近、悩みがある。
耳が聴こえなくなってきたのだ。

私の仕事には致命的であり、何とか誤魔化しながら評論の仕事を続けていたが、ある現代作曲家の新曲発表公演の朝、音を全く失ってしまっていることに気づいた。

(今さら言えないよな)
私は、何も言わずに演奏の始まりを待つ。

ステージで演奏する男は、髪を振り乱し、汗を飛び散らしながらピアノを演奏していた。
観客は、息をのむような表情で見つめている。

(これは、おそらく傑作…なのだよな?)
長年の勘で、私は静まり返る会場の中、
「ブラボー」
と言い、拍手を送ることにした。
批評家の拍手に続き、周りの観客も拍手を始めた。

演奏後、私は、

「今世紀最大の新しいジャンルの傑作が誕生した」

と投稿した。

わからない時は、
「新しいジャンル」
と言って褒めちぎれば、間違いはないのだから。

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