踏み込んだアパートには、死後数か月経過した、二つの死体があった。
「母親が亡くなって、その後息子が餓死したみたいですね」
「息子はおむつが当ててあった。介護が必要だったんだろうな、かわいそうに」
二人の刑事は状況を判断し、手を合わせた。
僕は戸惑っていた。
最愛の母が、だんだん変わっていく。
一昨日はコンロの火を消し忘れ、昨日は、買い物から帰れなくなった。
母の変化を止めるのにはどうすればいいんだろう?
母は、もう今の僕を見ていない。
「あっくん、ねんねの時間だよ」
「ご飯だよ、ママが食べさせてあげるね」
でも、僕の世話をする時は、火の扱いも裁縫も、きちんと出来るようになるのだ。
僕は、子供時代に戻ることにした。
「はい、あーん」
「一緒にねんねしよう」
すべて受け入れた。
「おっぱいの時間だよ」
「お風呂で洗ってあげるね」
そろそろ限界だ。
僕は、自我を手放した。
「あっ、うんちいっぱい出たね、オムツ変えなきゃ」
母の声掛けに、僕は
「あぁー」
と返すだけだった。



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