遠野物語

ショートショート

私たち夫婦と娘は、都会の生活に疲れ、田舎に移住することを決意した。
遠野物語の世界に憧れていた夫が、
「遠野に住みたい」
と熱望し、遠野に移住して半年。
不登校気味だった娘の表情も明るくなり、旦那も畑仕事に従事しながら、休みの日は川遊びをしたりと、田舎での生活を満喫している。

(移住は正解だったわ)

私は、二人の表情を見て噛みしめていた。

そんなある日、家に観光協会の人が訪ねてきた。
「何の御用でしょう?」
と尋ねる私に、その職員は
「先日、旦那様を川でお見掛けしまして…。よかったら、わが遠野のためにひと肌脱いでいただけないかと」
「…?」
「河童として、時々観光客の前で泳いでくれませんか?」

確かに夫の頭頂部の髪は、ほぼないに等しい。
川で泳いでいる夫を見て、近所の人が
「河童が出た」
と騒然としていたらしい。

「えっ?でも夫が何と言うか…」
そう返答に詰まっていたところ、奥の部屋から娘が出てきた。
「ママ、おやつは?」

その姿を見ていた観光協会の人は
「これは驚いた。娘さんにもぜひ、座敷童として我が協会に協力していただきたい」
「いや、娘はちょっと…」

「ママ、だからおやつは…」
「今、それどころじゃないから!」
と娘を一蹴した私を見て、観光協会の人は更に瞳を輝かせてこう提案する。

「よかったら、奥様は鬼婆として…」


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