あの日のお兄さん

ショートショート

暗くなる公園で、僕と弟は帰るのを躊躇っていた。
(今日もお母さん、酔っぱらってるかな?今晩も殴られるんだろうな)

「お兄ちゃん、帰ろう」
「… うん、そうだね、帰ろうか」
家路に向かおうとした時、一人のお兄さんが声をかけてきた。
「やすくん、こんばんは」
お兄さんは、僕の名前を呼ぶ。
「…こんばんは。お兄さん、誰?」

「君たち兄弟をよく知っているんだ。会えてよかった」
お兄さんは優しい笑顔をむける。

「行こう」
弟の手を引っ張り、家に帰った僕たちは、案の定、その夜もお母さんに殴られた。

次の日も、その次の日も、お兄さんは公園に現れた。
僕の瞳の奥を見透かすようなまなざしに、誰にも言っていない話をした。

「お母さん、毎日僕らを殴るんだ。家に帰るのが怖いんだ」

お兄さんは話し終えると、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
「僕が君を守るからね」

(僕らをわかってくれる人ができた)

心がふわっと軽くなった。

今晩のお母さんは、ひときわ荒れている。
空になった酒瓶を壁に投げつけ、僕と弟に殴りかかってきた。

(殺される)

そう感じた僕は、弟に覆いかぶさり、弟の盾になり母の殴打を受け続けた。
意識が遠のいてきた時、部屋にあのお兄さんが飛び込んできた。

「やすくん、逃げて。君の弟も僕が何とかするから」

と、僕を弟から引きはがし、アパートの外に出した。

その後、弟は亡くなり、お兄さんはいなくなった。

僕が成長していく中で、気づいたことがある。
自分がだんだん、あのお兄さんに似てきたこと。そして、お兄さんの目元には、特徴のあるほくろがあったこと。
それは、弟と同じものだった。

そして今、僕の目の前には、あの日の僕と弟がいる。
あの日からずっと悔いていた。あの日に戻れたなら弟を助けたい、と。
でもそれなら無限ループだ。
どうすればいい?

僕は、あの日の僕に話しかける。
「やすくん、こんばんは」
「君たち兄弟をよく知っているんだ。会えてよかった」

「僕が二人を守るからね」

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