眠れない伯爵は、自分が眠れるように、国中から音楽家を呼び寄せた。
チェリスト、ヴァイオリニスト、ピアニスト…。
でも、どんな楽器でも、誰の演奏でも不眠を治すことは出来なかった。
そんな伯爵のもとに、一人の声楽家が訪れる。
その歌は拙かったが、なぜかその晩、伯爵はぐっすりと眠ることが出来た。
彼は、その後もその声楽家をそばに置き、眠る時はその歌を聴きながら眠る日が続いた。
伯爵はやがて病気になり、声楽科の歌に包まれながら、安らかな表情で旅立っていった。
もう、瞼を開かない伯爵の顔を見ながら、声楽科はやさしく歌いかける。
「おやすみなさい、私の赤ちゃん」
その声は、伯爵が幼い日に聴いた、子守唄の声だった。

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