強迫神経症

ショートショート

今日もコンロの火が気になる。

きっかけは、火の消し忘れだった。
それから、一日に何度も確認しないと気が済まなくなった。
症状はどんどんひどくなり、次は鍵の閉め忘れが気になり、外出先から何度も引き帰さなきゃいけなくなり、仕事にも行けなくなり、外出も全く出来なくなってしまった。

今日も、朝からコンロの確認を何十回もして、外出したいのに、今度は鍵の確認が止められない。
以前は、社交的な私だったのに…。
同棲中の彼は、こんなに変わってしまった私を今もなお、大きな愛で支えてくれている。
彼にも申し訳ない。苦しい、こんな毎日…。もう嫌だ。

彼女には一目惚れだった。
明るく社交的な彼女は、そこだけが輝いてみえたのだ。
自分から女の人に告白したのは、彼女が初めてだった。
彼女は、はにかみながら
「はい」
と僕の告白を受け入れてくれた。

僕の彼女になってからも、彼女はやはり、誰にでも分け隔てなく優しい。
彼女に好意を寄せる人も、きっと現れるに違いない。
彼女が他の男にとられたら…、と想像するだけで気が狂いそうになった。

やがて、僕たちは一緒に暮らし始めた。
その日から、始めたことがある。
彼女がコンロを離れた後に、コンロに火をつけ
「料理の後、火を止めた?」
と声をかける。

それを何回か続けると、彼女は何度もコンロの火を確認しないと不安になったようだ。
(いい感じだ)
次に、仕事に行こうと鍵をかけた彼女の背後で鍵を開け、
「鍵はかけた?」
と声をかける。

そして今、コンロの火の消し忘れや鍵のかけ忘れが気になり、外出できなくなった彼女がいる。
僕の不安はやっと消えた。

今日も僕は背後からコンロの火をかけ、彼女に声をかける。

「コンロの火はちゃんと消した?」

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