はじめに
消費者が、より安いものを求めている時代。
企業側や生産者も、その流れに答えるためには、より安い人件費を求め、より効率のいい畜産を行うのが自然な流れなのかもしれません。
でもその中で、
社会の不均衡に目を向け、正当な価格で仕入れ、生産者に還元する。
コストはかけてでも、おいしい、ストレスのない状態で動物を飼育し、消費者に届けてくれている生産者さんがいます。
この記事では、こうした企業や商品、生産者の取り組みをご紹介します。
フェアトレードチョコレート
「フェアトレードチョコレート」という言葉は耳にしたことはありますか?
これは、カカオなどの原料を「適正な価格」で「継続的」に購入し、生産者の生活向上や経済的自立を支援することを目的としています。
私たちは品質の良いチョコレートが食べられ、私たちがその企業のチョコレートを食べることで、「児童労働」「貧困」「環境問題」を解決するお手伝いが出来る、皆が笑顔になれる循環の輪が出来上がります。

一般のチョコレートに比べてやや価格が高いのは、労働への正当な対価を支払い、環境に配慮した生産を行っているためです。
そうした背景を知ってチョコレートを手にとる。これが未来を変える小さな力になります。
フェアトレードチョコレートで有名なのが「ピープルツリー(People Tree)」
理念だけではなく、おいしさやかわいい手描きパッケージにも魅力があり、またフレーバーの種類も豊富なので、贈り物にも、自分でいろんな味を楽しむのもおすすめです。こちらの商品は人気もあり、カルディ、成城石井、紀伊国屋、ナチュラルハウスなどの店舗や、インターネットでも購入できます。
他にもフェアトレードチョコレートを販売してる企業はありますが、日本で入手出来るものは限られており、「第3世界ショップ(The Third World Shop)」や、「トニーズ・チョコロンリー(Tony´s Chocolonely)」なども、カルディ、成城石井などで見かけることもあります。
「フェアトレード」の商品は、チョコレートに限らず、服なども販売されています。
1枚のチョコレートが、フェアトレードの商品に目をむけるきっかえになればうれしいです。
平飼いの鶏
昔、スーパーなどがなく、肉も卵も簡単には手に入らなかった時代、家では鶏を飼い、産んだ卵を食べ、一年に一回、特別な日に家族が自分たちで首を落とし、特別な日の豪華な肉料理として食べていました。
首を落とすというと残酷に感じるかもしれませんが、肉を食べるという行為は、命に向き合うことであり、生きていくために必要なことであり、その時代には自然な光景だったのです。
鶏は鶏舎に入れられることもありましたが、もともと多頭飼いできるほどの家もあまりなく、鶏は鶏舎でも庭先でも、のびのびと歩き回って暮らしていました。
その頃の生活をしていた高齢者の方に話を伺うと「おいしいものはそんなになかった」と言いながらも「卵はおいしかった」と懐かしそうに話されます。
のびのびとした環境で育っている鶏の、産みたての卵を食べる。今の私たちからしたら、もう体験することのない光景かもしれません。
現在は、卵も鶏肉も、スーパーで安価で手に入る、生活に欠かせないものとなりました。
特に卵は「価格の優等生」とも呼ばれるほど、他のものの値段がじわじわと高騰している中、安定した価格を維持し、私たちの家計を支えてくれていました。
その価格を支えたのは、鶏舎でのケージ飼い(狭い金網かごに入れ、何弾も重ねて飼育する)で飼育密度を高めた上で、食事、排泄の掃除などの全てを自動化し、鶏にはストレスのかかる環境でありながらも、大量に供給できる仕組みを整えていたからです。
今、私たちの手元に届いている鶏肉と卵は、羽を広げる事も出来ない、足元に土がない、人間が手をかけ世話をしていない鶏の肉、そしてその鶏が生む卵が流通しています。
一方、そんな流れにあえて逆行して、走り回れる広さの鶏舎の中で、なるべくストレスを与えないように手間をかけ、目をかけながら養鶏に携わっている人もいます。今はその飼育方法を「平飼い」といい、その環境で収穫した卵は「平飼いの卵」という名前で流通しています。
前述のコスト削減のためのケージ飼いとは逆のことをしているので、当然コストはかかります。しかし、その卵は、かつての「卵だけはおいしかった」を再確認させてくれる、味の濃い、生命力に満ちた張りとつやをしています。
平飼いの養鶏を支えているのは、彼らの熱意と、それを理解し選ぶ消費者の存在です。
その消費者が減っていけば、彼らの熱意も、走り回る鶏の姿も日本からなくなってしまいます。
昨今は、飼料価格の高騰や鳥インフルエンザでの供給量減少など、いろんな要因が重なり、卵の価格は上昇傾向にあります。そんな時代だからこそ、卵への出費はなるべく抑えたいというのは、自然な思いだと思います。
でも、頻繁ではなくてもいいから、一人でも多くの人が「平飼いの卵」を手にとることがあれば、平飼いの養鶏の文化は、細くても長く引き継がれていくのでは、と思っています。

放牧牛
命との向き合い方を大切にする飼育方法でもう一つの形として、山の自然が草で覆われる夏の時期に、牛舎を飛び出して牧草地に放牧して自然の中で育てられる「放牧牛」がいます。
これには、様々なメリットがあります。
牛の健康促進(運動することで体が丈夫になり、ストレスもなくなる)
作業の省力化(餌の給餌や排せつ物の処理がいらない)
耕作放棄地の有効活用(耕作に向かない土地の活用、地域の景観保全)
鳥獣被害の軽減(耕作放棄地に野生動物の隠れ場所をなくすことで、周辺の農地への被害を守る)
など。
牛だけでなく、様々な立場まで笑顔になれる取り組みです。
ただ、放牧牛が食べる牧草は、牛舎飼育の牛が食べている栄養価の高い穀物とは違い、栄養素控えめで、運動量もあるため、日本の牛で美味しいとされている脂がのった「霜降り」が入っていません。食事の栄養が低いため、牛舎の牛は2年で出荷するのに対し、放牧牛は出荷までに4年以上かかるとのこと。
年齢や運動量で肉も硬めです。
そして牛舎にいるストレスとはまた違う、自然の環境下で生きるストレスによって、弱って亡くなってしまう子もいるようです。
放牧という取り組み自体も少なく、私たちが日頃食べている肉質と違うため、なかなか消費者が積極的に「自分も食べよう」という流れになっていないようです。
でも、赤みが多く締りのある肉だからこその美味しさがまたあります。
例えば日本では鶏肉以外にも、雉肉を食べる地域があります。鶏肉が柔らかい食べやすさなのに対し、雉肉は歯ごたえがあり、噛むほどに味が深まります。
放牧牛も、締りがあるからこその噛み応え、時間をかけて育てたからこその味の深みがあります。牧草で育った牛は、肉にも牧草の味が広がり、それが独特の香りとなります。
「ジビエ料理」に触れるような、奥深さもあります。
放牧牛は、「放牧牛」または、「グラスフェッドビーフ」と呼ばれ、そのような取り組みをしている都道府県の精肉店、またはインターネット通販で買うことが出来ます。
山辺に連なる緑と、そこでのびのびと牧草を食べる牛の姿に思いを馳せながら一度、手に取っていただければと思います。

まとめ
社会問題の解決に、生産者と私たち消費者を繋いでくれる企業、生きものの生ある時間に目を向け、本来のあるべき姿で畜産に励む生産者。
私たちに出来ることは、その灯が消えないように、細くでも長く続くように――バトンを受け取り繋ぐリレーに参加することだと思います。
私たちの未来が、少しでも温もりのある優しいものであるよう祈っています。


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