シューベルト【古典的な美しさと臨場感ある表現力】

クラシック音楽

はじめに

シューベルトの作品は、温かさや緊張感を宿し、春の陽気から冬の空気の冷たさまで、感情にも肌にも届くような深い表現力が魅力です。

この記事では、彼の音楽的背景や、その特徴などをご紹介します。

古典派とロマン派の融合

シューベルトの時代は、モーツァルトベートーヴェンに触れながら青年期を過ごし、後に台頭するショパンシューマンと同じロマン派の時代を生きました。

同時代のショパンやシューマンが、感情表現を軸に置くロマン派の系譜を歩むのとは異なり、彼はベートーヴェンと同じように、様式美のある古典派を継承しながら抒情的なロマン派を取り入れる、橋渡しのような位置にあります。

文学者では、ゲーテショーバーヨーゼフ・フォン・シュバウンと同じ時代を生き、彼らの詩に曲をつけたことで、「魔王」「音楽に寄せて」などの歌曲の傑作が誕生しています。

歌曲に特化

シューベルトには「歌曲の王」という呼称が浸透しているほど、彼の作品と歌曲にはとても親和性があります。

古典派の作曲家が、オペラのための歌曲を中心に創作していたのに対し、彼は、恋人に愛の告白するような、母親が子供に優しく語り掛けるような、日常に溶け込む歌曲を量産しました。

彼の歌曲は優しく美しく、その時の空気の温度まで感じさせる深い表現力があります。時に背後から恐怖が迫りくる緊迫感もあり、詩の世界を解像度を高めて音楽に完成させる手法は、他に類を見ないほどであると感じます。

ピアノ表現の多彩さ

彼が表現の美しさを発揮したのは、歌曲だけではありませんでした。

ピアノでもまた、「即興曲」「楽興の時」といった落ち着いた小曲から、自分で作曲しながら自分では難しすぎて演奏できずに「こんなに難しい曲は悪魔にでも弾かせればいい」と癇癪を起こした超絶技巧の「さすらい人幻想曲」まで、多彩な彩りを持つ曲を作曲しました。

転調を繰り返し、表情が様々に変わる旋律、歌曲を得意とするだけあって、歌うようなメロディーライン、古典派の様式美を残しながらも、ロマン派の感情を織り込むような胸に迫る旋律は、その後のショパンやシューマンへと続く、大切な道標となりました。

交響曲、室内楽、ミサ曲の功績

歌曲やピアノに比べ、注目度は低いですが、交響曲、室内楽にも情熱を傾け、彼の死後にその価値が再認識されました。

交響曲は、シューマンが彼の作品に光を当て、その価値に気づいた批評家が、口を揃えて「傑作」と讃えています。

室内楽もまた、歌曲で培った歌うようなメロディーラインに、調和のとれた楽器の響きが重なり、深みのある世界が広がっています。時には優しく、時にはダイナミックに――シューベルトが得意とした、ミニマムな素材で豊かな表現力を生み出す世界観が、室内楽の世界にも活かされています。

また、ミサ曲も作曲しましたが、彼の他の作品とは風貌の違う作品となっています。スピーディーで多作な、インスピレーションで創作されていたような作品とは一線を画し、バロック時代を感じさせる特徴的な和声に、ロマン派を思わせるまろやかな器楽の響きが絡み会っています。

礼拝堂で合唱団をしていた経験が、教会音楽を深く探求するきっかけになったのかもしれません。

まとめ

シューベルトは生涯に渡り、手を止める事無く作曲し続け、1000曲余りの曲を遺しました。

情熱は多岐にわたりましたが、歌曲を得意としたからこそ、一貫して「どの音楽の中にも歌を感じる」美しい世界が広がっています。

こんな原石があれば、人々がその価値を世に伝えようと尽力してきたことにも、改めて深く納得させられます。

次回は、この膨大な作品の中から、ジャンルに分けておすすめ曲をご紹介していきます。

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