余韻系

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黒猫

朝、家を出ると黒猫が俺の車の前を横切った。「危ない」ハンドルを急いで切ると、車はガードレールに突っ込んだ。猫は轢かずに済んだものの、車は大破した。「大丈夫ですか?」と通りかかった女性が声をかけてくれ、救急車を呼んでくれた。しばらく治療にかか...
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共感力

私は、最近涙もろい。よく、歳をとると涙もろくなるというが本当だな。四十を過ぎてから、やたらと涙もろくなってしまった。秋に木の葉が落ちるのを見ては泣き、春にタンポポの綿毛が飛ぶのを見て泣く。今日は、台風に耐えている樹木を見て、涙が止まらなかっ...
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心音

「また蹴った」私は夫と顔を見合わせる。臨月になった赤ちゃんは、毎日のように元気にお腹を蹴っていた。(あと一か月かぁ、待ち遠しいなぁ)今日も夫と一緒に産婦人科の診察に来ていた。お腹にエコーを当てていた医師が顔を曇らせて告げる。「赤ちゃんの心音...
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ネッシー

ネッシーの写真をとったマーマデューク・ウェザレルは「あの写真はイカサマだった」と言葉を遺して亡くなった。これによって、世の中から一つの伝説が消えた。死の間際、彼はネス湖を訪れていた。ネッシーは、彼の前に静かにあらわれた。「私の1枚の写真のせ...
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雲の上

僕がパイロットになったのには訳がある。幼いころ、母が亡くなる時、「悲しがらないで。これからはあなたのことを雲の上から見ているからね」と言う言葉を遺していったからだ。それ以来、僕は空を見上げることが多くなり、やがて空を旅する仕事をしよう、とパ...
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同窓会

俺は、パッとしない学生時代を送り、パッとしない就職をし、パッとしない結婚をして、今もまた、相変わらずパッとしない毎日を送っている。そんなある日、中学校の同窓会の案内状が届いた。今、交流のある奴もいないから、これが何かのきっかけになるかな?と...
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喜劇王

青年は喜劇王に弟子入りした。「お前は、笑われる人、笑わせる人、どっちになりたい?」と尋ねられ、(笑われるのは何か嫌だな)「笑わせる人、かな?」と答えた。次の日、師匠は膨大な本を青年に渡した。歴史書、哲学書、文学書、聖書などだ。数千冊の本を読...
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忘れ物

僕は今、門の前にいる。「さあ、どうぞ」と門番に声をかけられたが、何かひっかかる。「忘れ物をした気がするんです。取ってきてもいいですか?」「…、そうですか、仕方ないですね。では、夕刻、門が閉まる前に戻ってくださいね」そして、今日の朝に戻ってい...
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優しいおじさん

おじさんは、子どもの頃から私の事をそばでみていて、ずっと支えてくれている。私は生まれつき目が見えず、母がそんな私を女手一つで育ててくれた。母の死の直後に、角膜移植手術のチャンスが訪れ、初めて見たのがそのおじさんだった。おじさんは、身寄りのな...
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最後のアダムとイブ

人類の滅亡の日が、刻々と近づいている。とうとう最後の2人になった。男の名はアダム。女の名前はイブ。2人は何度も愛し合ったが、命を宿すことが出来なかった。人生の終わりを悟ったアダムは、遺していくイブにこう語りかける。「命あるものは君だけになる...