「また蹴った」
私は夫と顔を見合わせる。
臨月になった赤ちゃんは、毎日のように元気にお腹を蹴っていた。
(あと一か月かぁ、待ち遠しいなぁ)
今日も夫と一緒に産婦人科の診察に来ていた。
お腹にエコーを当てていた医師が顔を曇らせて告げる。
「赤ちゃんの心音が、聞こえなくなりました」
陣痛促進剤を使い、出産にしようかと提案されたが、そのまま無言で帰宅した。
その日の夜も、赤ちゃんは元気にお腹を蹴ってきた。
翌日、私たちは病院を再訪し、
「予定日までお腹で育てます」
と答えた。
赤ちゃんは、毎日お腹を蹴ってきた。
「まだここにいるの?」
「もうすぐ会えるね、待ってるね」
声をかけるたびに、お腹を蹴って返答してくれる。
(ここにいるよ)
と言うように。
出産予定日、陣痛促進剤を打ち、出産を行った。
もちろん、産声はない。
瞼を開けない赤ちゃんに、私たちは声をかける。
「今日まで、ここにいてくれたんだね、会いたかったよ、ありがとう」
足が少し、動いた気がした。


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