少年が入った映画館は、今日は貸し切りだった。
案内人が
「では上演を開始します」
と告げる。
暗い世界から始まり、そこには、のぞき込む1人の男がいる。
笑いながら泣いている。
やがて画面に映る顔は、2人の男女になり、いないいないばあをしたり、しきりに画面に笑いかけ、話しかけている。
ああ、これは――自分の両親だ。
はじめて話した。はじめて歩いた。
2人は手をたたいて喜び、子供も嬉しくなって何度も繰り返す。
自分は、まったく覚えてない記憶だ。
やがて、大泣きしながら入園式に向かう姿に変わる。
これは、なんとなく覚えている。母親が大好きで、離れたくなくて大泣きしてたっけ。
毎朝、泣いて嫌がる僕に、母親は笑顔で「頑張ってね、バイバイ」と手を振る。
車に戻ると、母親はひとりで涙をこぼしていた。
だんだんと成長し、僕の世界は、両親だけではなくなる。
友達ができる。
そして、少しずつ、悪い方へ引きずられていく。
母は怒り、道を正そうとする。けれど、それは僕の心には届かない。
父と母は、毎晩語り合っていた。
僕のために、何ができるのか。
幼いころはあんなに甘えん坊だった僕だが、母に向ける言葉は、全てナイフのようだった。
母は、暴言には軽く受け流しながら、それでも「おはよう」「おやすみ」「気を付けて」と声をかけ続けていた。
僕の行動はどんどんエスカレートし、深夜のバイクの暴走へと変わっていく。
両親が殴っても、泣いて止めても、僕の心は、もう別の方向を向いていた。
そして、次の映像は、
集中治療室で眠り続けている僕の姿だった。
映画館は明るくなり、案内人に
「出口はあちらです」
と告げられる。
しかし、画面の映像はまだ続いている。
僕の手を握り、涙を流し、名前を呼び続ける母。
その目には、事故後数日眠っていない疲労感が見てとれた。
「ねえ、目を覚まして。お母さんのもとに帰ってきて」
と、僕を呼び続けている。
案内人は
「どうします?続きを上演しますか?」
と僕に尋ねる。
「はい」
目が覚めると、そこは病院だった。
僕の映画の再上演がはじまった。



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